魔女の契約

第1話 旅立ち

こちらはオエカキ掲示板で続けていたお話を、
手直ししまとめたものです。

主人公である真知(マチ)と
フィルの視点がたびたび入れ替わります。


1 ・ 真知

目覚めると、そこは。

ひんやりとした床に寝ていた。
自分のすぐ近くから動物の息遣いが聞こえる。
犬かと思ってよく見ると、
それは生きているように見えない、
犬のような影だった。

2 ・ 真知

「いやあああっ!!!」

犬もどき相手にスポーツバッグを振り回した。
彼らは消えてもすぐ元通りになって、
私の恐怖心はさらに大きくなった。

暴れ疲れてうずくまっていると、
辺りが急に静かになった。

「     」

人がいる。

「……?」

でも私は目の前の人が何を言っているのか、
まったくわからなかった。

3 ・ フィル

力のある魔術師でも、
呼び出せない者もいると言う。

自分にはおまけ程度の力しかないのだから、
「契約者はあらわれませんでした」と
報告するだけだと、簡単だと思っていた。


だが目の前に現れたのは、予想外の生き物だった。

4 ・ フィル

「な?女の子だろ?」

後ろから悪友の楽しそうな声が聞こえた気がしたが、 そんなことどうでもいい。
呼び出した生き物は人の形をしていて、
しかも自分とは違う性別なんて。
ものすごい悪夢だ。

……僕は、女性が死ぬほど苦手だった。

5 ・ フィル

「漆黒の魔女ね…さすが俺が見込んだ男だなっ」

赤毛の男はあごをさすりながら、彼女を見定める。

「冗談じゃない。無理だ。前代未聞だ」
「触れても平気だったんだろ?問題ないない」

こいつ……完全に人の不幸を楽しんでる顔だ。

「……先生に報告する」
「あー……それは止めておいた方がいいんじゃないかな」

一瞬迷う。
が、僕はその言葉を無視して歩きだした。

6 ・ フィル

結果を報告すると、すぐに返信が返ってきた。
その内容は。

「……彼女と一緒に今すぐ来い、だって。
それにしても三階級も上げるなんて、すごい出世だねー。
先生のとこ着いた途端あの世行きかもよ」
「不吉なこと言うな」

僕の背中を叩きながら、さも愉快そうに笑う。

「行くの?」
「当然だろ。あの人は……僕の恩人なんだ」

7 ・ 真知

外に出ると同じ青空、だけど。
ここは日本語が通じない。
それから、多分だけど黒髪の人間もいない。

今からどこに行くんだろう……。

目の前の人の手を取ったとたん、
大丈夫だと安心しきってしまった私は、
のこのこついて行っている。

それがなぜなのかも疑問に思わなかった。

8 ・ フィル

少女が自分のフードを取りその髪があらわれると、 周囲にいた魔導師達のざわめきが起きた。

「黒髪…!」「魔女だ」

まわりのざわめきが大きくなり、彼女の瞳が不安げに揺れる。
先ほどまで赤毛の友人といた時には笑顔も見せていたというのに。

僕は、彼女を売ろうとしている。

9 ・ 真知

言葉が伝わらないのはわかってる。
私の事が面倒なのもわかる。
でも、いやだ。
あの人達と一緒に行きたくない。……怖い。

私は必死になって彼を引き止めた。

10 ・ フィル

先生が彼女の手を取ってすぐ、小柄な身体が小刻みに震えだした。

「う…ああ……」

みるみる彼女の顔色が青白くなっていく。

「ま、待って下さい!」

マチの肩をつかんで先生から引き離した。

「……どうかしたかい?」
「先生、説明して頂けませんか」
「ああ……説明か。そうだね、簡単に言うと」

「今、君と彼女は仮契約状態なんだ。
その契約を私とする為に、私の力を彼女に分けているんだよ」

先生の端正な顔がにこりと笑う。

「彼女の血を丸ごと違う血と入れ替えるようなものかな。
だから少々の拒否反応は仕方ないんだ」

11 ・ フィル

「……僕が先生の配下にいれば、
先生が彼女と契約する必要はないですよね?」

無駄だとわかっていても、あえて提案した。

「そういう訳にもいかないのだよ。
人型との契約……ましてや黒髪の魔女と契約だなんて、
魔術師にとってはとても貴重なんだ」
「……?」

掴まれている右腕から、なにか違和感を感じる。
これはなんだ?

「聡い君ならわかっているよね。
……だからここに連れてきたんだろう?」

※ここまで漫画で描いています


12 ・ フィル

「彼女に触れてわかっただろう?流れる力が。
試しに簡単な魔術を使ってみてもいいよ。さあ」

先生が僕に手をのばした時、隣にいた影が動いた。

「フィルッ!!」

僕が自分と同じ目にあうと思ったのかもしれない。
マチは持ってきていた模造刀のようなものを、
先生の首に突き付けた。

「マチ!駄目だ近付くな!」

彼女は睨みつけたまま、動かない。
その様子を見ていた先生がくくっとのどを鳴らした。

「……なるほど、魔女ではなく騎士だったか。
面白い」

13 ・ 真知

この時ほど剣道をしていて良かったと
思ったことはない。

私は手をのばしてきた長髪男に、
竹刀をつきつけた。
それに動揺したまわりのフード達が、
不穏な動きをし始める。
なにかを取り出そうとする動きに反応して、
私は次々に彼らの手首を狙った。

14 ・ フィル

隙をついて彼女を逃がそうと思っただけだった。

外套を巻き上げる程度の突風だったはずが、
詠唱の途中だというのに講堂を揺らしている。
……このまま詠唱を続けるのが恐ろしくなった。
その轟音の中、先生がうっとりとした顔で笑いかけた。

「どうしたんだい、フィル?早くその力を私に見せてくれ!」

15 ・ フィル

その時、講堂の扉が開いた。
「いやーフィル君お待たせー!就職先見つけてきたよ」

そこには鮮やかな赤毛の男と、後ろには兵士の姿があった。
「そこの二人はウチの専属になったんで、
手ぇ出さないでもらえますか、先生?」

16 ・ フィル

「……引いてくれたみたいだねえ」
「一時的に、な」

先生達の姿が見えなくなって、やっと大きく息をつけた。
そう、今だけだ。
まだ彼女の存在が知られていない間は、
僕でも対処できる……のか?

「まったく、女の子に手ぐらい貸したら?」

座り込んでいるマチの前に、
自称フェミニスト男が自分の手を差し出した。
彼女は手を取っていいのか不安げに瞳を揺らす。

「大丈夫だよ、俺は魔法使えないし」

おそるおそる手を取ったマチと視線が合う。
どくりと、身体が鳴った。

僕は彼女の手を取れない。
そう……僕は『彼女』が怖いんだ。
『漆黒の魔女の力』が、怖かった。
2011.01